Secret Lover's Night 【連載版】
この表情は、何だか見たことがある気がする。

映画…ご飯…プリン…いや、晴人だ。

と、晴人に甘える千彩の姿を思い出し、ふっと軽く笑って不満げに智人を見上げる千彩の頭を撫でた。

「晴人の目にはお前はこんな風に映ってんねやな」
「はるの目?ともと、そんなん見れるの?」
「ちゃうがな」
「なに?ちさ、よくわからへん」

言葉通り晴人の目に映る物が見えたのだと捉えた千彩は、まるでとてつもなく凄い物を見るかのようにキラキラと目を輝かせながら智人を見上げていて。それに一度うーん…と難しい表情をし、ふっとそれを緩めて智人は笑った。

「お前が晴人の彼女やってことや」
「んー?ちさははるのカノジョ。それとはるの目?んー?」
「せやからー、晴人はお前を一番愛してるってことや」
「んー…うん!はるはちさを一番愛してる!」
「せや。良かったなぁ、千彩」
「うん!」

あの日、「大好き!」と笑う千彩を、溢れんばかりの愛おしさを込めて写真に収めた晴人。幸せそうに笑う少女のポスターは、あの日の晴人の言葉通り販売数をうんと上げる役目を存分に果たした。

「これで十分やないか」
「うーん…」
「お前はお前、MARIはMARI。せやなかったら、お前が「千彩」に生まれてきた意味が無いやろ?」
「意味?」

これはまた難しい話を…と吉村は眉を顰めたけれど、そんなことはお構い無しに、智人は不思議そうに首を傾げる千彩に言葉を続けた。

「この人には、「MARI」として生まれてきた意味がある。だから、お前にも「千彩」として生まれてきた意味があるんや」
「んー?」
「お前の名前はあ、千を彩るって書いて「千彩」なんやろ?」
「うん!でも、ちさ意味わからへん」
「せやなぁ…」

少し考え、智人はゆるりと笑ってぷにっと千彩の頬を抓んだ。

「晴人と幸せになって、俺らと家族になって、それから…こうやって笑って、皆を幸せにする。それがお前の名前の意味や」
「はると幸せになって、ともとと家族になって、みんなを幸せにする?」
「せや。俺だけちゃうぞ。晴人も、パパも、ママも、姉ちゃんも、お兄様も、皆お前の家族や」
「家族いっぱい!」
「せやな」
「ちさ、幸せー!」

立ち上がってギュッと抱き付く千彩を受け止める智人を見上げながら、父は思った。やはり今日はコイツの成長祝いだ、と。
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