Secret Lover's Night 【連載版】
晴人を前にするといつもそうだ。

「どした?」
「ううん。いい」

智人との時間ならば、たっぷりとある。言葉を探すのに時間がかかってしまっても、それをもったいないと思ったことはなかった。

けれど、晴人は忙しい身。今度はいつ帰るのか、それさえハッキリしないのだ。言葉を探すよりも晴人の話聞いていたい。自分の知らない話をいっぱいしてほしい。そう思うと、千彩の頭は途端に言葉を探すことをやめてしまう。

「何か寂しいな、それ」

ギュッと向かい合わせに抱き締められ、千彩は晴人の胸へと擦り寄った。髪を撫でる手が心地好くて。再び眠気に襲われ、一度大きなあくびをして千彩は答えた。

「いっぱいお勉強しとく」
「勉強?」
「もっといっぱい本読んで、いっぱいはるとお話出来るようにする」
「そっか。ありがとうな」
「うん」

その言葉を最後に、千彩は再びスヤスヤと寝息を立て始めた。話しているうちに覚醒し始めた晴人の脳は、それに釣られることなく目覚めを訴えていて。素直に従うべく布団から抜け出し、千彩にしっかりと掛け布団をかぶせてかけて手を止めた。


「怖いん…やっけか」


確かそう言っていた。と、少しだけ掛け布団を足元にずらし、風邪を引かないように布団の傍に置いてあったバスタオルを千彩の肩にかけ、晴人は和室を出た。
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