Secret Lover's Night 【連載版】

 安心は闇の香り

暫く街灯の続くアスファルトの道をご機嫌に歩き、ふと思う。そういえば、ここはどこだろう?と。


「お家がどこかわかんない」


東京という街に慣れていないだけならまだしも、千彩はここへ車で連れ去られた。乗っていた時間は数分…いや、十数分。あの公園からかなり離れた場所であることは間違いないのだけれど、土地勘が無いだけにさっぱりわからない。

加えて、周りはもう陽も沈みきった藍色一色で。立ち並ぶ家と街灯に、ずっと続くアスファルトの道。それに急激に不安を覚えた千彩は、ギュッとスカートの裾を握って歩みを止めた。もちろん、誰かに見つからないように電信柱の陰に隠れて。


「おにーさま…」


こんな時いつも迎えに来てくれたのは、ぜーぜーと肩で息をしたヒーローだった。じわりと滲む涙をゴシゴシと袖口で拭い、千彩はブンブンと頭を振って不安に耐えようと試みた。


「おにーさま…おにーさまぁ…」


けれど、やはりそれは耐えきれるほど小さなものではなくて。ポロポロと零れ落ちる涙を止められぬまま、その場に座り込む。

そんな千彩の姿を見つけ、近寄って来る男が一人。すっかり俯いてしまった千彩は、それに全く気付かなかった。
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