Secret Lover's Night 【連載版】
ビシッと並ぶスーツ姿の男達を前に、智人はゴクリと息を呑んだ。

裏社会の人間と言えば、ギラギラと眼光が鋭く、乱暴でガラの悪いイメージがある。

けれど、並ぶ姿はそればかりではなくて。どこか知的な雰囲気を漂わせる者や、サラリーマンを思わせる者も少なくない。

「どないしました?トモさん」
「あぁ…いや。別に」
「はははっ。イメージとちゃいますやろ。もっとこう…人相の悪い奴らばっかが集まってる思うてたんちゃいますか?」

図星を突かれ苦笑いを零す智人に、吉村は言った。

「俺らの仕事は、一般の方々から見たらゴミやクソや言われる仕事かもしれません。それでも、ここでしか生きていけん奴はよぉさんおるんです。そんな奴らが寄せ集まって、大きな家族なんですわ」

智人自身、吉村の職業について詳しく知っているわけではない。ただ、世間のイメージはわかっているつもりでいる。

そして、自分の知る「吉村」という人物がそのイメージとは少し違った人物だということも。

いや、見た目はイメージそのままだけれど。

「ええんちゃいますか。人は人、自分は自分ですよ」
「さすがトモさんや」

ニッと白い歯を見せて笑う吉村に、恐怖を感じることはない。同じ目で見れば、眼下に広がるスーツ姿の集団もサラリーマンの集会か何かのように見えた。


「兄貴!どこの仕業でっか!?俺がケリつけてきますわ!」


そう、相手が黙ってさえいてくれれば。

「落ち着け。まだわからんからこうやってお前らを集めたんやないか」
「可愛いちー坊誘拐するなんか、絶対許せませんわ!俺にやらしてください!」

一人がそう言い始めれば、それは波のように広がって。ざわつく集団を前に、吉村は智人に一度軽く頭を下げて深く息を吸い込んだ。


「やかましいわ!落ち着け言うとるんじゃ!」


シンと水を打ったように静まり返る集団を見て、智人は思う。あぁ、この人はこの集団のトップに立つ人なんだ、と。

「どこのもんに連れて行かれたか、誰か情報仕入れてきた奴おらんのんか」

不機嫌そうに尋ねる吉村に小さく「はい」と手を上げたのは、意外にも隣にいた智人だった。
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