Secret Lover's Night 【連載版】
「こいつ、千彩に発信機付けとったみたいです」
「へ?発信機?」
「昔っからそうゆうの好きで、親によぉねだりよったんです。ほんで、俺や晴人に付けてはストーキングして遊んどったんですよ」
「人聞きの悪いこと言うなって」

更に頬を膨らませた悠真は、手を伸ばして器用にパソコンの画面を切り替え、吉村に地図を見せた。

「この赤いのがちーちゃんのおる場所で、ここをカチッとすると…」
「おぉ!こりゃ凄い!」
「でしょ?」
「こいつん家、金余ってるんですよ。ほんでまたこんなんが長男なもんやから、無駄金を湯水の如く使わせて…」
「あっ!俺がちーちゃん見つけたのに!」

そう言われてしまえば、智人も吉村も「すいません…」と頭を下げるしかなくて。これをどんな経路で入手したとか、犯罪なのではないか?とか、そんなことを詰め寄れる状態ではなかった。

吉村に至っては、「ぜひうちの組に…」と思っていたのだけれど。

「千彩、大丈夫か?」
「…うん」
「ほな、これ食ってまえ。食ったら帰るぞ」
「はる…怒ってた?」
「怒ってへんわ」
「けーちゃんも?」
「おぉ」
「ごめん…なさい」

しゅんと小さくなった千彩を解放し、智人はスプーンを手に握らせて食事を再開するように促す。けれど、千彩はふるふると小さく首を横に振ってスプーンを置いてしまった。

「ごちそうさま」
「え?ちーちゃん、もう食べへんの?」
「お腹いっぱいになってしまった」

千彩の食いしん坊は、ここにいる三人共が熟知している。けれど、無理に勧めたところでこれ以上は口に運ばないだろう。相当堪えたか…と、優しく千彩の頭を撫でながら智人は思う。

「プリンは?」
「…いい」
「ほな帰ろか」
「うん」
「今日一晩家で寝たら、明日帰るからな」
「え?」

家で寝て、帰る?千彩には言葉の意味がちんぷんかんぷんで。首を傾げながら智人を見上げると、いつにも増して優しい表情の智人がにっこりと笑った。

「俺と一緒に帰るぞ。パパとママんとこ」
「え?」
「俺がずっと傍におったる。バンドの練習もライブも、全部一緒に来たらええ。もう寂しくない」
「でも…」
「晴人もそうせぇって言うとった」

実際は、智人が強引に頷かせたのだ。けれど、千彩はそれを知らない。自分は晴人に捨てられた。そう思うだけで、千彩の目の前は真っ暗になった。

「はる…ちさのこともう要らないって?」
「え?」
「ちさのこと…ほかすって?」
「そんなこと言うとらへん。あかん。ちょっと落ち着け」

慌てて訂正しようとしたものの、千彩の目は既に虚ろになってしまっていた。やってしまった…そう思ったとて、この状況では既に遅い。取り繕うことも出来ず、三人は虚ろな目をしたままの千彩を連れて店を出た。

目指すは、彼らの待つマンションだ。
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