Secret Lover's Night 【連載版】

 闇色少女と不安定な想い

わんわんと声を上げて泣き出したマリをどうにか宥め、漸く落ち着いた頃だった。玄関の扉が開いた音に、慌てて恵介が駆ける。


「ちーちゃん!えっ?ちーちゃん?」


おそらく、喜んで抱きつこうとしたのだろう。両手を広げて駆けてきた恵介は、智人に抱えられて帰宅した千彩の姿に戸惑った。

「智人!ちーちゃんどないしてん!」
「あー…」
「あーちゃうわ!ちゃんと説明せぇ!」

玄関先で声を荒げる恵介の肩を叩き、吉村は黙ったまま首を振った。何も言わないでやってくれ。無言のままでも、しっかりと目でそう訴えて。

「恵介君、にーちゃんは?」
「あぁ…晴人はリビング。取り敢えず…ちーちゃんベッド寝かす?」
「いや、隣の部屋で寝かす。一人にしとったら発作起こして泣き喚くかもしれんし」

千彩を横抱きにしたまま靴を脱ぎ、智人はリビングへと続く廊下を歩いた。どう言い訳をしようか。懸命に考えるのだけれど、答えは出ないままだった。

「ただいま」
「ちぃっ!どないしたんや!どっかケガしてんのかっ!?」

戻ってきたら取り敢えず抱き締めたい。抱き締めて、寂しい思いをさせたことを謝ろう。そう思っていたのだけれど、いざ戻ってきたとわかると体が動かなくて。出迎えは恵介に任せて大人しく待ったものの、待ち望んだ姿がいつもの元気な姿でなかったことで、晴人はパニック寸前だった。

「何かあったんか!?」
「何もない」
「何もないわけないやろ!どうなってんねん!」
「うっさいな!口出しすんな!俺が連れて帰る言うとるやろ!」

千彩を抱いたまま声を荒げ、智人はハッと息を呑む。けれど、腕の中の千彩は何の反応も示さなくて。取り敢えずソファに横にさせ、サイドボードの引き出しからいつも寝る前に飲ませていた薬を探し出して千彩の手に握らせた。

「悠真、水」
「はいはい」
「智っ!」
「大きい声出すな。発作起こしても、落ち着かせんのお兄とちゃうやろ。面倒見きれんやつが口出すな言うてんねん」

ハッキリと拒絶され、晴人はグッと唇を噛んでそれに耐えた。ソファに横たわる千彩の姿は、まるで人形のようで。ゆっくりと脇に腰を下ろしてみるも、視線さえ向けてくれない状態だった。
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