Secret Lover's Night 【連載版】
千彩が幼い頃、自分はこうして宥めてやることをしなかった。いくら泣いても喚いても、仕事だからと千彩を組頭に預け、後のことは任せっきりにした。

その結果がこれだ。

こんな様子を見ると、父親だと胸を張って言えない自分が情けなく、同時に千彩に対する申し訳なさでいっぱいになる。


「ちー坊…すまんかったな」


吉村の弱々しい声が、シンと静まり返ったリビングの床に落ちる。それを拾う者は誰もおらず、秒針の音と静かな息遣いだけが響いた。

「智人、パジャマ」
「うん、ありがとう。千彩、あっち行こか」
「ままは?」
「ママはもう寝た。お前も寝んか」
「ちさ、今日お仕事してない」
「今日はもうええ。俺と一緒に寝るんがお前の仕事や」
「一緒に…寝る」
「よし。ほな着替えに行こ」

追って来るなよ。と目だけでそう告げ、智人は千彩を支えてリビングを後にした。それから5分も経たないうちに悠真が千彩の服を取りに来るように呼ばれ、持って出てきたそれを恵介に手渡す。

「え?下着も脱がしたん?」

驚く恵介に、悠真は苦笑いで。苦しいって嫌がるねん。と笑い、パンツは履いてるで!と冗談混じりに付け加えた。こんな風に少しズレた発言をするあたり、この二人はよく似ている。伊達に共に三木兄弟の親友をやってはいない。


「ちーちゃん、どこおったん?」


洗濯物を取り敢えずベッドルームへ運び、恵介は戻って早々悠真に尋ねた。あの調子では、智人は尋ねても答えてくれそうにはない。だったら見つけ出したという本人へ。それは実に懸命な判断だった。

「俺な、ちーちゃんに発信機付けててん」
「はぁ?発信機?」
「ちーちゃんがーいっつも着けてるうさぎのネック。あれ、GPS機能搭載」
「何でまた…」
「ちーちゃんのことやから、いつか絶対こうゆうことするって思ってん。俺の読みは的確やったわ。役立ったやろ?な?にーちゃん」

嬉しそうに晴人を覗き込む悠真は、まるで褒めてくれ!と尻尾を振る小型犬。昔からどうもそれに弱い晴人は、渋々手を伸ばして悠真の頭をわしゃわしゃと撫でた。
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