Secret Lover's Night 【連載版】
「毎日こんなやったんやぞ。それを面倒見てきたんは俺や」
「ちぃ…」
「無駄や。こうなったら、俺の言うことにしか反応せん」

悠真が差し出したグラスを受け取り、智人はゆっくりと千彩の体を起こす。されるがままの千彩は、薬を握ったままじっと智人を見つめた。

「千彩、薬飲もか」
「…うん」
「大丈夫や。薬飲んで寝たらもう怖ない」
「ママ…」

未だに、こうして千彩の心を抉る母親の影。残した傷は、ひと月ではとても塞ぎきれなかった。

「大丈夫や。俺はどっこも行かへん。ずっと千彩の傍におったる」
「ともと…」
「ほら、薬飲め」
「…うん」

小さく頷いた千彩は、白い錠剤を口に運んでグラスの水を飲み干した。そして、そのまま智人の首に縋り付くように絡み付き、そっと瞼を下す。


「大丈夫や。何も心配要らん。俺はずっと一緒や」


漸く肩の辺りまで伸びた黒髪を撫で、智人は千彩にだけ聞かせる特別な声音で何度も「大丈夫」と紡ぐ。それを見慣れているのは、あのひと月を共に過ごした悠真と吉村だけで。

随分と調子が良くなってから会わせてもらえるようになった晴人、初めてそんな様子を目にする他の三人は、何か言いたくとも言葉が出ない状態だった。

「恵介君、ちーちゃんのパジャマある?」
「えっ?あぁ、持ってくるわ」
「お願いします」

このまま眠らせてしまった方が後が楽だ。そう判断した悠真は、智人が声を掛けるよりも先に恵介に声を掛け、準備を整える。その気遣いを有り難く受け取り、智人は千彩を落ち着けることだけに集中した。

「千彩、今日はもう薬飲んだから風呂やめとこな」
「…うん」
「着替えて、一緒に寝よか」
「怖い人…もう来ない?」
「大丈夫や。来ん」
「ほんまに?来たらどうする?」
「そん時は、俺がお前を守ったる。俺はヒーローやからな。やっつけたる」
「ともとはヒーロー」
「せや。だから安心せぇ」

成長したと思ったら、小学生に逆戻り。…いや、これではまるで幼稚園児だ。そんな千彩を見下ろしながら、吉村はうっと涙を堪えた。
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