Secret Lover's Night 【連載版】
「俺と玲子はもう関係無いやろ。今は智と付き合うてんねんから」
「付き合うとるわけないやん。わかっとって言うてるやろ」
「知らんな。ライブも来て嬉しそうにしとったやん。ええこっちゃ」

あくまでも「知らぬ、存ぜぬ」を通そうとする晴人に、恵介はグッと一度表情を歪め、すぐさま悲しげな表情をして缶を置いた。

「玲子…謝りたい言うとった。お前にちゃんと会うて謝りたいって」
「今更かい。てか、いつ喋ってん。ライブの時か?」
「ずっとそう言うてた」
「は?」
「連絡取っててん。あっち帰ってからもずっと」

これはとんだ裏切り行為だ。

今にも涙が溢れそうな恵介の状態を見ていなければ、きっとそう責めた。

「言えよ。そうゆうことは」
「ずっとお前のこと気にしとったんや。自分のせいで晴人がおかしなったって、ずっと自分を責めとった」
「別に…玲子のせいちゃうわ。てか、おかしなったって何やねん。おかしなったって。俺は普通や」

自分では、いたって「普通」のつもりでいる。昔からよくモテた。昔はそれを相手にしなかったけれど、今はする。いや。千彩と出会うまではしていた。ただそれだけの違いで、大きく変わったつもりも、変えたつもりも無い。

けれど、そう思っているのは自分だけだ。それもよくわかっているつもりでいる。

「言わせてもらうけどな、おかしなったんは玲子の方やろ。自分のこと棚に上げてよぉ言うわ」
「お前は…玲子が何であんなんなったか知ってんのか?」
「知るか。何回かけても俺の電話には出んかったからな。お前の電話には出てたみたいやけど」

裏切られ、捨てられたのは自分だ。理由さえ聞かされず、別れの言葉一つ残さず玲子は自分の元を去ったのだ。それなのに、恵介とは連絡を取っていたと言うではないか。いくら親友と言えど、嫌味の一つも言いたくなる。

「あん時玲子は…」
「やめろ。今更聞かされても、今の俺にはどないしようもない。それくらいお前の阿呆な頭でもわかるやろ」

言わないでくれ。そう言って傷付いた顔をすれば、恵介は一人で抱えたがる。一人で抱えて、悩んで、自分の持つ優しさの全てでそれを包んでしまう。そんな奴なのだ。だからこそ、「聞きたくない」という意思表示が絶対条件だった。

「俺には千彩がおる。今更何言われても、それは絶対変わらん」
「いや、でも…」
「でも、もへったくれもない。玲子の話は二度とすんな。聞きたない。わかったか?」
「…わかった」

申し訳ないけれど、しまい込んだままにしてもらおう。本当に、申し訳ないけれど。
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