Secret Lover's Night 【連載版】
「うーん。さすがにこれじゃ無理かな」

髪をタオルで拭きながら冷蔵庫の扉を開くも、大した食材は残っていない。朝食を出して、尚且つ二食分を作り置きする。そんな考えには、さすがに無理があった。

けれど、コンビニに買いに行かせて食べさせるということは避けたい。

どうしたものか…と頬を膨らせながらリビングに戻り、そして、思い出す。目の前でソファに転がる、未だ夢の中に居る友人の存在を。

「おい、恵介。お前今日仕事は?」
「んー…なんじ?」
「9時過ぎ」

チラリと時計を確認して告げてやると、慌てて起き上った恵介が声も出さず何かを探し始める。そして、タイミング良く居場所を知らせるように目的の物が電子音を響かせた。


「はい。あぁ、すみません。直ぐに向かいます。はい」


と、聞こえた。晴人の耳には。

けれど、目の前の恵介には一向に動き出す気配が感じられない。これはまた悪い癖が出たな。と、寝ぐせのついた髪をわしゃわしゃと掻き回す恵介をじとりと睨み付けた。

「朝から怖い顔してんなぁ、せーと」
「何回言うたら理解するんや?お前のこの阿呆な頭はっ!」

学生時代から、恵介は遅刻の常習犯で。注意をすれば反省した素振りは見せるのだけれど、それはやはりその瞬間だけで長くは続かず。翌日になればまた堂々と遅れて教室に入ってくる恵介に、先生も真面目に学校に通っていた晴人も頭を悩ませた。

社会に出てからはまだマシにはなったものの、やはり遅れて顔を出す方が多い。職種は違えど同じ事務所に所属するだけに、それは学生時代と変わらず晴人の悩みの種となっていた。

「さっさとシャワー浴びてこい!」
「いっ…た!」

バチンッと一発くれてやり、晴人はキッチンへと足を向けた。その後に恵介が続き、立ち入ろうとした途端また一発。

「シャワーはあっちや!」
「コーヒーちょうだいやー」
「浴びてからにせえ。今から俺はメシ作るんや」

カウンターの端に置きっぱなしにしてあった薄いオレンジ色のカフェエプロンに手を伸ばし、腰に巻き付ける前にパンッと一振りする。

お腹を空かせて起きて来るだろう千彩のために、昨日よりもしっかりめの朝食を用意する。腕を振るう相手が居るということは、こんなにも嬉しいものだっただろうか?と、久しぶりに感じるその高揚感に自然と笑みが零れた。
< 38 / 386 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop