Secret Lover's Night 【連載版】
けっして広いとは言えない店内に、合計6人。
それぞれに鬱々とした空気を醸し出していて。これは…続けていられない。と、玲子は諦めて「close」と書かれた札を扉に掛けた。そして、店内と同じく白で揃えたロールカーテンを引く。
「ちーちゃん、おいで?」
「イヤ!」
べったりと智人につっくいたままの千彩は、ぶんぶんと大きく首を振って恵介を拒絶した。それに肩を落としたのは、何も恵介だけではない。手を伸ばしかけた晴人も、行き場の無い手をそっと自分の体に沿わせて項垂れた。
「何してんねん、お前」
「いやっ、俺は…」
「どうせ俺のバイト姿見せたろーとか、なーんも考えんと呑気に思って連れて来たんやろけどな」
怒りを含んだ智人の言葉に、今度は悠真がしゅんと肩を落とす。やれやれ…と肩を竦めながら、未だひっくひっくとしゃくり上げる千彩の頭を撫で、智人はチラリと玲子に視線を送った。
幼い頃から、大好きだった幼なじみ。
兄に掻っ攫われ、ボロボロに傷付いて地元へ戻って来た玲子。
あの日、ドア越しに聞いた玲子の声は震えていた。
「ほっといて。独りにして」
その言葉通り、何年も会わずにいた。
漸く普通に会ってもらえるようになったのが、デビューが決まる直前のこと。それまでに何度も玲子の住む家のポストへチケットを届け、今度こそは!と意気込む気持ちを挫かれてきた。
デビューが決まり、これでダメならもう諦めよう…と、意を決しインターフォンを鳴らした。
「デビュー決まってん。れいちゃん、絶対来て!」
それだけを伝え、封筒を押し付けるようにその場を去ったあの日。
ステージの上から玲子の姿を見つけるまでは、ピリピリとした胸の痛みに演奏どころではなかったのを覚えている。
少し震えた指先で、玲子が一本の薔薇の花を摘む。
深紅の花を咲かせるそれは、司馬の屋敷でも特別大切にされているものと同じものだった。
「初めまして。えーっと…」
「チサや。千を彩るって書いて、千彩」
「初めまして、千彩さん。私、松宮玲子といいます」
ゆっくりと差し出されたそれを見遣り、小さな手がそっと伸びる。
「マリちゃんの・・・お花」
「え?」
「マリちゃん。はるのモデルさん」
「HALのって…MARI?」
聞き覚えのある名に、玲子の手が更に震えを増す。
それぞれに鬱々とした空気を醸し出していて。これは…続けていられない。と、玲子は諦めて「close」と書かれた札を扉に掛けた。そして、店内と同じく白で揃えたロールカーテンを引く。
「ちーちゃん、おいで?」
「イヤ!」
べったりと智人につっくいたままの千彩は、ぶんぶんと大きく首を振って恵介を拒絶した。それに肩を落としたのは、何も恵介だけではない。手を伸ばしかけた晴人も、行き場の無い手をそっと自分の体に沿わせて項垂れた。
「何してんねん、お前」
「いやっ、俺は…」
「どうせ俺のバイト姿見せたろーとか、なーんも考えんと呑気に思って連れて来たんやろけどな」
怒りを含んだ智人の言葉に、今度は悠真がしゅんと肩を落とす。やれやれ…と肩を竦めながら、未だひっくひっくとしゃくり上げる千彩の頭を撫で、智人はチラリと玲子に視線を送った。
幼い頃から、大好きだった幼なじみ。
兄に掻っ攫われ、ボロボロに傷付いて地元へ戻って来た玲子。
あの日、ドア越しに聞いた玲子の声は震えていた。
「ほっといて。独りにして」
その言葉通り、何年も会わずにいた。
漸く普通に会ってもらえるようになったのが、デビューが決まる直前のこと。それまでに何度も玲子の住む家のポストへチケットを届け、今度こそは!と意気込む気持ちを挫かれてきた。
デビューが決まり、これでダメならもう諦めよう…と、意を決しインターフォンを鳴らした。
「デビュー決まってん。れいちゃん、絶対来て!」
それだけを伝え、封筒を押し付けるようにその場を去ったあの日。
ステージの上から玲子の姿を見つけるまでは、ピリピリとした胸の痛みに演奏どころではなかったのを覚えている。
少し震えた指先で、玲子が一本の薔薇の花を摘む。
深紅の花を咲かせるそれは、司馬の屋敷でも特別大切にされているものと同じものだった。
「初めまして。えーっと…」
「チサや。千を彩るって書いて、千彩」
「初めまして、千彩さん。私、松宮玲子といいます」
ゆっくりと差し出されたそれを見遣り、小さな手がそっと伸びる。
「マリちゃんの・・・お花」
「え?」
「マリちゃん。はるのモデルさん」
「HALのって…MARI?」
聞き覚えのある名に、玲子の手が更に震えを増す。