Secret Lover's Night 【連載版】
「はるが…」
そこまで言うと、大粒の涙が零れた。これではダメだ。負けてしまう。そう思うのだけれど、ひっくひっくとしゃくり上げるだけで、言いたいことは何一つ口に出来なかった。
「えっ…?」
「おい、千彩」
戸惑う二人は、顔を見合わせて首を捻る。とうとうその場に座り込んでしまった千彩が、膝を抱えて嗚咽を漏らし始めた。
「千彩」
「えっ…うぇっ…」
「はぁー。もう」
「うぅっ…うぇっ…」
「わかった。わかったからこっち来い。抱っこや」
おおかた、悠真が余計なことをして、晴人が更に余計なことをしたのだろう。そう判断した智人は、玲子に向かって音を出さずに「ゴメン」と口を動かし、座り込む千彩をひょいっと抱き上げた。
「おー。重なったな」
「うっく…ともとぉ」
「はいはい。ちーちゃんいいこー。ええ子やから泣かんといてくれ」
しがみ付く千彩に頬を寄せ、とびきり優しい声音で宥める。その表情は、ライブ時とも接客時とも違う、甘く穏やかな笑顔。そんな智人の表情に、玲子は大きく目を見開いた。
玲子の知る智人は、いつでも反抗的で、生意気だった。
けれど、それは晴人に対抗したい一心だったことも知っている。
何年か振りに会うようになり、こうして店を手伝ってもらうことになっても、自分に対してはいつだってあの頃のままの態度だった。
そんな智人が、こんな風に愛おしそうに目を細めている姿を見ることになるだなんて。
何とも言い難い複雑な思いを抱え、玲子はふと大きな窓の外を見遣る。
「はる・・・ちゃん」
そこには、不安げに表情を曇らせながら店内を見つめる晴人の姿。その右隣には、同じような表情をした恵介。左隣には、申し訳なさそうに眉尻を下げた悠真の姿がある。
「ちーさ」
「うぅっ…」
「なぁ、千彩。晴人どうした?」
「はる・・・はるがぁ」
晴人の名を出すと、落ち着きかけていた気分が再び乱れる。自分ではどうにも出来ない歯がゆさに、千彩はギュッと智人にしがみ付く腕に力を込めた。
「苦しいっちゅーねん。殺す気か」
「はるが・・・はるがぁ!」
「あー、はいはい。もうわかったから」
トントンと千彩の背を叩きながら、智人は大きく息を吐く。目の前の玲子は、何故か自分達ではなく外を見つめたまま固まっていて。今度は何だ。と、千彩を抱えたままその視線の先を辿り、とうとう大きなため息が出た。
「何やねん。揃いも揃って鬱陶しいわー」
せっかく平和な日々だったのに。と、これから起こりうるだろう大きな揉め事に、智人はガックリと肩を落とした。
そこまで言うと、大粒の涙が零れた。これではダメだ。負けてしまう。そう思うのだけれど、ひっくひっくとしゃくり上げるだけで、言いたいことは何一つ口に出来なかった。
「えっ…?」
「おい、千彩」
戸惑う二人は、顔を見合わせて首を捻る。とうとうその場に座り込んでしまった千彩が、膝を抱えて嗚咽を漏らし始めた。
「千彩」
「えっ…うぇっ…」
「はぁー。もう」
「うぅっ…うぇっ…」
「わかった。わかったからこっち来い。抱っこや」
おおかた、悠真が余計なことをして、晴人が更に余計なことをしたのだろう。そう判断した智人は、玲子に向かって音を出さずに「ゴメン」と口を動かし、座り込む千彩をひょいっと抱き上げた。
「おー。重なったな」
「うっく…ともとぉ」
「はいはい。ちーちゃんいいこー。ええ子やから泣かんといてくれ」
しがみ付く千彩に頬を寄せ、とびきり優しい声音で宥める。その表情は、ライブ時とも接客時とも違う、甘く穏やかな笑顔。そんな智人の表情に、玲子は大きく目を見開いた。
玲子の知る智人は、いつでも反抗的で、生意気だった。
けれど、それは晴人に対抗したい一心だったことも知っている。
何年か振りに会うようになり、こうして店を手伝ってもらうことになっても、自分に対してはいつだってあの頃のままの態度だった。
そんな智人が、こんな風に愛おしそうに目を細めている姿を見ることになるだなんて。
何とも言い難い複雑な思いを抱え、玲子はふと大きな窓の外を見遣る。
「はる・・・ちゃん」
そこには、不安げに表情を曇らせながら店内を見つめる晴人の姿。その右隣には、同じような表情をした恵介。左隣には、申し訳なさそうに眉尻を下げた悠真の姿がある。
「ちーさ」
「うぅっ…」
「なぁ、千彩。晴人どうした?」
「はる・・・はるがぁ」
晴人の名を出すと、落ち着きかけていた気分が再び乱れる。自分ではどうにも出来ない歯がゆさに、千彩はギュッと智人にしがみ付く腕に力を込めた。
「苦しいっちゅーねん。殺す気か」
「はるが・・・はるがぁ!」
「あー、はいはい。もうわかったから」
トントンと千彩の背を叩きながら、智人は大きく息を吐く。目の前の玲子は、何故か自分達ではなく外を見つめたまま固まっていて。今度は何だ。と、千彩を抱えたままその視線の先を辿り、とうとう大きなため息が出た。
「何やねん。揃いも揃って鬱陶しいわー」
せっかく平和な日々だったのに。と、これから起こりうるだろう大きな揉め事に、智人はガックリと肩を落とした。