Secret Lover's Night 【連載版】
「けーちゃん!」

その姿に気付いた千彩が、勢い良く背から飛び出す。

それを受け止めて、「マイエンジェルー!」と朝と変わらぬ調子で頬を緩ませる恵介に思わず頭を抱えたくなったのは、何も晴人だけではない。

「ケイ、荷物運びは終ったのか?」
「え?あぁ、もうちょっと?」
「さっさと運べ。ハル、ちょっと」
「あぁ…はい」

頼むわな?と口パクで合図した晴人に、恵介がグッと親指を立てて答える。振り返った千彩が少し不安げな表情をしていたけれど、恵介が一緒なだけに泣き出すことはないだろうと、鞄を掛けたまま上司のデスクの前へと足を進めた。


向かい合った上司は、何とも言い表せないような苦悶の表情をしていて。

女を一人同行させたくらいでそんな顔をするような上司ではないだけに、晴人もその重々しげな空気に息を詰まらせていた。

「あのー…織部さん?」
「妹だろ?」
「へ?」
「お前…」

そのまま言葉を詰まらせた上司の顔を覗き込むと、どこか哀愁が滲んでいて。いったい何が言いたいのだろうか…と、上司の不可思議な行動に晴人は首を捻る。

「ハル」
「はい?」
「お前の趣味に口を出すつもりはないが…」
「え?あ?あー、なるほど。ちょっと待ってください。はい、待って」

その瞬間、察しの良い晴人には全ての糸が解けた気がした。

「言うときますけどね、俺はロリコンちゃいますよ」
「いや、だってお前…」
「あれはねぇ、ああ見えて17歳です。まだちょっと…まぁ、俺の年からしたらアレですけど…中学生とかやないですからね?ね!」

バンッとデスクを叩き念を押すと、その音に再び事務所に静けさが戻った。チラリと振り返ると、笑いを堪えた恵介の姿が真っ先に目に入る。

「お前…今笑える立場か?」
「え?いやー、ははは」
「ははは、ちゃうわ!俺の癒しを返せ!」

ツカツカと歩み寄り、そのまま腕の中に千彩を取り戻す。慣れないヒールのせいかよろけた千彩を抱き留め、とうとう笑い始めた恵介の頭にキツめの一発をくれてやった。

「ったぁ!」
「仕事せぇ、仕事。あぁ、アホらしい。お前らも仕事せぇ!」

一喝する晴人に、止まっていた空気が動き出す。

「はる?」
「ちぃ、お前何歳なんやった?」
「ちさ?17歳」
「なぁ?酷い奴らや」
「誰?けーちゃん?」
「けーちゃんも、や。もー!俺、可哀相!」

デスクに両手を付き項垂れた晴人の頭を、千彩がそっと撫でる。その姿に恵介が笑い声を上げ、晴人に怒鳴られるまで数秒。

賑やかな時間が、再び動き始めた。
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