Secret Lover's Night 【連載版】
「どうしたの?」
「オニーサン…美人」
「美人?そりゃ大した褒め言葉だね」

ふふっと笑い、メーシーは千彩の頭をそっと撫でる。そして、後ろでポカンと間抜けに口を開いている恵介にふぅ…っとため息を零した。

「何?ケイ坊」
「あぁ、いやー…」
「言いたいことがあるならどうぞ?」
「いやー…メーシー…ちーちゃんはハルのやからその…」

口ごもり、恵介はガシガシと頭を掻く。

どうやら恵介は、千彩とメーシーがお互いに興味を持ち始めたことを懸念しているようで。すぐさま千彩を引き寄せ、庇うように自分の後ろに置いた。

その様子に、千彩が首を傾げる。

「けーちゃん?」
「ちーちゃんはハルが好きなんやんな?」
「ん?うん」
「な?本人もこう言うてることやし…」

言い難そうに言葉を続ける恵介に、メーシーは再度、更に深いため息をついた。


「バッカじゃねーの、お前。んなこと思ってるわけねーだろ」


口調が一変した目の前の人物に、今度は千彩があんぐりと口を開ける。

それに気付いたメーシーが、おっと…と再び優しい笑みを戻し、手に持っていた黒い箱を開いて見せた。

「好きなの選んでいいよ?ここにあるのは全部使いかけだから、新しいの出してあげる」
「えっ…でも…」
「遠慮しなくていいよ?姫が綺麗になったら、王子も嬉しいんじゃないかな」

そう言われると、謀らずも晴人が大好きな千彩はいとも簡単に絆されてしまって。半身を乗り出し、メーシーの広げる箱の中身を覗き込もうとした。

けれど、恵介の様子が気になって。ピタリと腰に巻き付くと、お伺いを立てる。


「けーちゃん、あれ見てもいい?」


不安げに問われ、恵介が断れるはずもなく。コクリと首が縦に振られたのを確認して、千彩はそっとメーシーの前へと足を踏み出した。

「姫は自分でメイク出来る?」
「…出来ない」
「そっか。じゃあ俺が教えてあげるよ。こっちおいで」

いいの?と目を輝かせる千彩に、メーシーがゆるりと微笑む。そんな二人の姿に恵介がふーっと重いため息を吐くも、到底それは楽しげに去って行く二人には届かない。


何もありませんように…と、恵介はただただ祈った。
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