灯火-ともしび-
「燈祭りなんてずっと行ってるでしょ?
別に珍しくもなんとも…。」

「夏海さんと行くのは初めてです。だから行きたいんです。」


真っすぐに、本当に聞いてるこっちが耳を疑うくらい真っすぐに彼はそう言った。


「…ついで言うと、浴衣姿の夏海さん、超見たいです。」

「なんでそこまで…。」


思考と感情が全然ついてこない。
ここまで言われる理由も分からない。


「そうですね…夏海さんのことが好きだからだと思います。」

「は…?」


思わず間抜けな声を出してしまったのは、あまりにもさらっと言われたからだろう。
普通ならば躊躇うような〝好き〟の二文字を。


「恋愛的な意味でも、それ以外の意味でも。」


まるで好きなのは当たり前とでも言うかのような口調に、恥ずかしいとかそんな気持ちよりも先に疑問が湧く。


「…ごめん、こんなさらっと言われるような話だっけ?」

「本当は違うかもしれませんが、でもなんでって言われたら〝好きだから〟が最も正当な理由だと思います。
夏海さんに嘘をつくのは俺の信条に反します。」


凛とした声で返ってくる反応に不意にどきっとする。
この緊張感にも似た感情の名を、私は知らない。


「本当にどうしても俺と一緒に行きたくなかったら…来なくていいです。
それに俺は夏海さんのこと好きだけど、だからと言ってどうこうする気はとりあえずないです。
だから、そこを気にして行かないっていう理由で来ないのは…ちょっと困ります。」

「…分かった。どうしてもあんたと行きたくないってことは、ない。」


あまりに落ち込んだトーンで言われたものだからつい、反射のように言葉を返してしまった。

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