灯火-ともしび-
「…明るい火、って感じ。」

「え?」


帰り道。
遠ざかる灯りを見つめていて思ったことを口にした。


「風馬って火みたいよね。ぽっと灯って私の知らない世界を照らしてくれる…そんな感じ。」

「知らない世界って…主にエロいことですけど大丈夫ですか?」

「は!?だ、大丈夫じゃないっ!」

「…顔真っ赤ー…。でも可愛い。」

「んっ…!?」


ちょっとだけ身を屈めた彼の方から不意に降ってきたキス。


「…風馬がキス好きだったなんて知らなかったわ。」

「今日は特別ですよ。だって夏海さんが特別に可愛いし、それに…。」

「…?」


見上げたそこには、明るい笑顔。


「特別に嬉しくてテンション上がってるんで。」

「…そういう笑顔は…なんか年下って感じがして落ち着く。」

「え?」

「だって…なんかキスとか余裕そうに見える…から。
私はいっぱいいっぱいなのに。」

「それで、悔しい、と?」

「そう!」

「お互い相手は余裕そうに見えるもんですって。
それに相手のことしか見えてないからそう思うんです、多分。」


もう一度、彼が身を屈めて、耳元に唇を寄せる。


「でも、余裕のない夏海さん、可愛くて俺、ハマっちゃいそうです。」

「~っ…!バカ!」


彼の屈託のない笑顔越しに見える燈祭りの灯火たちが、私と彼の帰路を明るく照らしていた。


*fin*

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