灯火-ともしび-
身体中に何故か力が入らない。
上手く身体を起こせない。


「…うご…けないっ…。」

「ふにゃふにゃですね、夏海さん。
じゃあ俺が身体寄せます。」


そう言って身体をすっと寄せてくる風馬。
目の前には鎖骨が広がる。


私は少し、首だけ上げて鎖骨の少し下に唇をつける。


「…そうです。そしてちょっとだけ強く吸い上げて下さい。」


上手く力の入らない唇になんとか脳から命令を下す。
ちょっとだけ強く吸って唇を離すと、少しだけ赤い痕が残る。


「上手です。」


そう言ってにっこりと私に笑顔を向けると、風馬の唇はまた胸元へと移る。
チクリと痛みが刺したかと思えば唇に糖度の高いキスが降ってくる。


力の上手く入らない身体はいつも以上に抵抗出来ず、ただそれを受け入れる。


「んっ…も、もういいっ…もう…充分っ…。」

「俺はまだまだし足りないんですけど。」

「っ…あっ…んっ…。」

「もっとしてもいいですか?」

「だめって言ったらっ…んっ…やめっ…止めるの?」

「…まさか。こんなに可愛い夏海さん見て止められる奴なんて男じゃないです。」


私の言葉は何の意味も持たず、ただ風馬のキスだけが降り注ぐ。
…嫌じゃない自分が不思議で不思議で仕方がない。

< 83 / 85 >

この作品をシェア

pagetop