あおぞらカルテ
患者署名の欄に書かれた、丸い“西部奈菜”の文字。

ICD植え込み術に関する説明と同意書。

結局、奈菜ちゃんは手術を受けることになった。

奈菜ちゃん自身の決断で。

手術は明日。

ナースステーションで、同意書を眺めながらため息をついた。


「お疲れさま」


ポンと肩を叩かれて、大屋先生がいたことに気付いた。


「患者さん達はみんな、なりたくて病気になったわけじゃない。こちらが治療を無理強いする理由もない。ただ、患者さんが望むような生き方ができるように、手助けするのが医者の仕事ですよ」


その言葉の重みは十分すぎるほどに分かった。

奈菜ちゃんと出会ったとき、説得することしか考えていなかったのに。


「キミはなかなか見どころのある医者になりそうですねぇ」


そう言われたけど、今は虚しい気持ちでいっぱいだ。

これで…よかったんだろうか?

奈菜ちゃんが自分で決めたことだけど…。


「先生、チョコレートいりますか?」

「…え?」

「カカオにはGABAが含まれていますからね」


どこまでもマイペースな大屋先生。

でも、その無表情な顔、実は色んな種類があるってわかった。

今は…先生なりの笑顔、かな。

手の平にのせられた一粒のチョコレート。


「明日もがんばりましょうね、道重先生」


明日が近づいている。

明日までに、もう一度、奈菜ちゃんの部屋に行こう。

これから一緒に頑張りましょうって伝えるために。
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