あおぞらカルテ
嘘も方便だ。

そう思って事を平穏に済ませようとしていた。

なのに…


「…先生?本当のことを言ってくださいね?主人は誰といたんですか?」


奥さんの目がキラリと光るのを見た。

も、もしかして…知ってる!?


「私、知ってるんです。主人が毎週火曜日の夜、だれかと過ごしてるって」

「…は、はぁ」

「ぜひ救急車を呼んでくれたお礼が言いたいわ。“彼女の”連絡先を教えてくださいます?」


ヤバイヤバイヤバイ!

妻としての自信か、プライドか。

その堂々とした振る舞いに唖然。


「ねぇ?先生?」

「あ…いやぁ~、こちらも把握しておりませんから…そのぉ~」


思わずしどろもどろになったオレの椅子を看護師さんに蹴られた。


「通行人の方でしたので、申し訳ありませんがお教えできません。個人情報ですので」


看護師さんのナイスフォローのお陰でなんとか切り抜けた。

ところがその数日後、患者さんを挟んで妻と浮気相手の修羅場になって、オレが止めに入る騒ぎになった。

これって医者の仕事か!?

田尾先生は言う。


「あぁ、そんなの日常茶飯事だ」


平々凡々と生きてきたオレにはカルチャーショックだ。

平和な世の中を望むなら、頼むから、倒れるときは妻の前にしてくれよ…。



そんな救命センターで、また事件が起きた。
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