あおぞらカルテ
父さんは独り言みたいに呟く。


「仕事ってのは、思うようにいかないことも多いからな…特に医療の世界はさ」


人の命、人の人生にかかわるからこそ、その責任は重い。

まだ踏み入れたばかりの世界。

オレはちゃんと一人前になれる?

オレがやりたいことって?


「父さんはさ、心臓外科医が天職だったと思ってる?」


素朴な疑問だった。

全国から父さんを頼ってオペに来る患者さんもいる。

“名医”ってやつだ。

周りから見れば、天職だ。


「…どっちかっていうと、父さんは外科医向きじゃないんだ。手先の器用さも、判断の早さも、何もかも凡人だし」

「そうなの?」

「けどさ、天職って英語で何て言うか知ってるか?」


その後の父さんの言葉は、ずっと心の片隅に残ってる。

“天職=calling”


「人に請われて自分の能力を最大限に生かすことを言うんだよ。天職にするかどうかなんて、自分次第だ」
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