薄紅の花 ~交錯する思いは花弁となり散って逝く~
あの頃は妖を葬る家とは思えないほどに一般的な家庭と変わらない平穏という文字が似合う暮らしをしていた。


櫻澤家異端児とされた癒し能力の持ち主である兄紅華と役立たずとされた陰の気に当てられやすい俺―――結斗の存在を気にもとめない。逆に認めてくれたのだ。お腹を痛め生んだ母はもちろん、次期当主となろう父も現当主御爺様も。大切な櫻澤本家の血筋として等しく育て、教育してくれた。


まさに幸せそのものの暮らし。藤岡本家ととてつもなく仲が良く、紫華さんと紫音ともよく遊んでいた。どうやら藤岡家の人々の中では反感をかっていたらしいが、それでも関係を崩すことなどはなかった。


そんな藤岡家の紫音に幼いながらの恋心というやつを抱いていたが、それは内緒である。


今はそんなこと微塵も感じてはいない…否、分からないといった方が正しいだろうか。あの子へ抱く感情がいったい何なのか分からない。時節彼女の瞳に吸い寄せられ、判断力が衰えてしまう。まぁその話は今置いておき、話に戻す。
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