薄紅の花 ~交錯する思いは花弁となり散って逝く~



「そっか。

 紅華兄さんはね桜みたいな人だったんだ。紅色の華―――つまり桜と繋がる名なんだ。桜は俺達の家の名であり、兄が次期当主だと示しているようなものでね。兄はその名に相応しき人だった。純粋な兄は性根が美しくて、桜の純潔という花言葉に相応しかったんだ。

俺はそんな兄さんが好きで、兄さんの華、桜のことが大好きだった。でも今は嫌いで嫌いでしょうがない。

知ってる?純潔って、とても素晴らしい言葉だけど、脆くて哀れな言葉でもあるんだ。清らかで穢れないものはすぐになにものにもおかされてしまう、つまり穢れを受けてしまいやすいんだ。その特徴までも体現していたから兄さんはあんなことになってしまった。

ならば兄さんを表す華である桜があのような花言葉ではなかったら兄さんは次期当主として今もなお家にいたのではと思うんだ。

だけど今となっては仕方ない。だからさ、好きでありたい、そう思うようになったんだ。兄さんの華であった桜を、家の象徴である桜を好きでありたいとね。

だからさ、紫音、俺が桜を好きになれるように、兄さんを尊敬したままであれるように協力してくれ」



「うん。私も結斗君の力になりたい、力を貸したい」
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