薄紅の花 ~交錯する思いは花弁となり散って逝く~
そうだ。許せぬはずがない。だって彼らは櫻澤家本家当主、次期当主そして、次期当主が愛しく思っていた妻、子供を惨殺したのだから。その頃の藤岡家の人間達としてはあたかもそれが正義だといわんばかりのような行いであったであろう。だが櫻澤家から……特に分家の者からしてみれば敬愛する当主達が殺されたのだ、正義なはずもない。もちろん許せぬはずもない。それでも本家の者たちはそんなの関係ないと言い、挙げ句敵対関係ではなく同盟に近い関係を保とうとしていた。とんだお人よしだ。まあそんな人たちだからこそ私達は畏怖を、尊敬を、敬愛を抱いているのだが。
「分かっているよ、静寂。君の思いも、分家がどれほど私達の事を大切に思っているのかも、知っている。だから…もう終わりにしようと思っているんだ。兄に安寧を捧げられたら、彼女とは関わらない。俺は俺なりのけじめという奴があるからね。
では、御爺様の所へ行ってくるね。明日の朝に出立できるよう、御爺様に挨拶しとかなければ」
そういう結斗様は輝いていた。いつもと変わらない筈なのに、いつもとは違う結斗様のようにも感じる、矛盾に違和感を覚えつつ、いつのまにやら方向を変え去っていく結斗様を見送った。