薄紅の花 ~交錯する思いは花弁となり散って逝く~





「夜分遅くに申し訳ございません、御爺様。

 明日朝に出立しようと思いまして、御爺様に薄紅華の葬《さくらのそう》を借り受けに参りました」



暗いが、御爺様の顔には疲労の色が見える。それなのに御爺様は俺が訪れた時、寝る様子1つも見せず、机に向かっていたのだ。まあ、現在は夜遅くとはいえ、正式な場なので俺も御爺様もお互い向き合っているのだが。もちろん今着用している物も夜着ではなく着物である。


薄紅華の葬とは櫻澤家の者が妖に侵され、妖と化した者を葬る刀。それの所持する者は当主であり、当主の命・許可が下りた時のみ使用が許される。今回の件はオレの問題であると同時に櫻澤家本家の問題でもある故に当主たる御爺様の許可されている。



「ああ、行くのか。分かっておるな、己の身内である兄をこの刃で葬る意味が」



夜であるが電気をつけておらぬはずなのに、御爺様の手にある薄紅華の葬は淡い紅色に仄かな光に包みこまれているように見える。その光は実に神秘的で、異世界というものがあったならば、きっと異世界で作り上げられた刀なのではないだろうかと勘違いしてしまう。
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