薄紅の花 ~交錯する思いは花弁となり散って逝く~


同年代に近しい体付きをした少年の姿を保っているが、実際の姿がどのようなものか分からない。穴が開いたり、切り裂かれたりされたボロボロの着物。人間の限度を超えてしまいそうな筋肉故に体中からの悲鳴を己の聴覚神経から脳へと届けてくる。しかもその悲鳴は微かなものではなく盛大で、下手したら山中に聞こえてしまうのではないか。彼が放つ妖気は普段目にする雑魚妖怪以上のものだ。あの頃はまだそれほどでもなかったというのに。恐らく日々妖を食すやら何ならして妖気をためてきたのだろう。


別に自分達を待っていたというわけではない彼は自分たちを眺めて、辛うじて形を保っている唇を歪め下品な笑いを浮かべる。決して昔爽やかで相手に好印象を浮かべる兄の笑みとは重ならない。それを兄であった個体がしているという事実を苦々しく感じ、無意識に唇をかんでいたようだ。そこからは微量の血液が流れていく。血液が落ちたのが合図となった。
< 202 / 211 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop