シャクジの森で〜番外編〜
「そのお方を離せ!!貴様などが手を触れていいお方ではない!!」


16時を過ぎた西通りの外れにウォルターの鋭い声が響く。

日は西に傾き、通りに長い影を落とす。

冷えた秋風が熱くなった頭を冷やすように通り抜けていく。

道の真ん中にぐるりと半円を描くように立ち並ぶのは、ウォルターと市場通りの警備二人、つい先程合流したパトリック、それに見知らぬ紳士が三人。


夕暮れも近いため人の通りはほとんどなく、こんな緊迫感溢れる事態でも野次馬の姿は数えるほどしかいない。

買い物途中のカップル数組と、建ち並ぶ店の入口から心配そうに事態を見守る店主や店員の姿が見えるくらいだ。





「私の、責任です・・・!」


喉の奥から絞り出すような声を出すウォルター。

犯人を居抜くように鋭い眼光を放つブラウンの瞳。

唇を噛みしめ拳を固く握り締め、どんな僅かな動きも少しの表情の変化も見逃さないよう、凝視していた。

それは瞬きをする間も惜しいほどに。



犯人には全くスキがない。

白く滑らかな首筋にナイフを突きたて、華奢な身体を前に出し盾にするようにして捕らえている。

たまにエミリー様に耳打ちしているが、きっと脅しの言葉でも囁いているのだろう。震えながらも僅かに首を縦に振っているのが見える。



「―――っ!その方に何も言うな!」


直ぐ様飛び掛かり取り押さえたいが、あのナイフは少しでも身動ぎをすれば柔らかな肌に傷を付けてしまう。

迂闊に動くことが出来ず、犯人との距離をなかなか縮められない。



――なんてことだ。

大切な方一人守りきれないとは。

全く自分に腹が立つ。

これは、油断していた、では済まされない。



私は、何度同じ過ちを繰り返すのだろう。

何度辛く怖い思いをさせてしまうのだろう。

何度苦しい想いをすれば、

私は、貴女様をきちんと守れるようになるのだろう。


ほんの僅かのことだ、ほんの僅かな時間、目を離していた隙にとらわれてしまった。

一瞬何が起こったのかわからず、手にしていたコップが地面に落ちる音を聞くまで全く動くことが出来なかった。

情けない、全く不甲斐なくて嫌になる―――



「来るな!俺を見逃せ!」



男が睨み付ける視線の先には、三人組の紳士がいる。

各々妙に体格がよく、一目見て鍛えられた兵士だと分かる。



「それは、出来ん。その方を放して大人しくこっちへ来い。そうすれば決して悪いようにはしない」



刺激しないよう声を荒げることなく静かに発せられる声。

紳士たちはジリジリと男に近付いて行く。

男はエミリーを抱えたままジリジリと後退りをする。

西通りに普段にないひっ迫した緊張感が漂う。
< 71 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop