シャクジの森で〜番外編〜
「失礼致します。貴方様は兵士長官のパトリック殿ですね。お初にお目にかかります。私はサディルの騎士団A長マーフィーと申します。我々は貴方様の指示に従います」


「あぁ、宜しく頼む」


「あの男、カイル・ベクトはもともと私共の同僚です。内密にとらえようと機会を窺っていたのですが・・・あのようなことに。そのご様子から、貴方様の大切なお方とお見受け致します。大変申し訳ありません」


深々と頭を下げるマーフィーを一瞥し、すぐに犯人に視線を戻す。

そのブルーの瞳がスゥと細まり唇が歪められる。


「あぁ、確かに。確かに、私の大切な人だ。だがそれは私だけでなく、この国にとっても、だ」

「国にとっても・・・と仰いますと、ま、まさかあの方は―――」


あの方は確か、お一人で花を愛でておられたはずだ。

その様なお方であるなら何故護衛が居ないんだ。

信じられない、と言った面持ちでマーフィーはとらわれているエミリーを見た。

言われてみれば確かに普通のご令嬢とは気品が違い、拘束されていても気を失うことなく気丈にされている。

相当な恐怖であろうに、必ず助けてもらえるという絶対の信頼があるからか。

ごくりと息を飲み質問しようと口を開きかけたところ、背後から感じる気配にゾクッと背中が震え振り返った。

厳しい顔つきのサディル国長官ウィリアムが見知らぬ紳士と一緒に歩いてくるのが見える。

その紳士が自分に近づくにつれ、ゾワゾワと肌が泡立ち背筋が凍りつく。

本能が“危険だ、逃げろ”と警告してくる。

脚ががくがくと震えだし、逃げたくなるのをマーフィーは必死でこらえた。

幾度も修羅場を経験してきたマーフィーでも丹田に力を込めていないと立っていられない。

震える体をなんとか宥め動かし、ウィリアムに対し居住まいを正した。



「ウィリアム様、このような失態を致し大変申し訳ありません」

「うむ、マーフィー。その台詞はこちらに居られるアラン王子に申し上げるべきだ。あのお方はお妃様であらせられる」



・・っ―――このお方はあの時の・・・っ!


頭の中に噴水広場での出来事が蘇る。

あの時はこの国の名のある兵士だとばかり思っていたが。

体の中を冷たいものが走っていく。



「一度ならず二度までもっ。失礼致しました!アラン王子殿、大変申し訳ありません!!」



通りの石畳に頭をつけんばかりに頭を下げるマーフィーを一瞥し、無言のまま通りすぎるアラン。


震えながら頭を下げたままのマーフィーの肩をポンポンと叩き、ウィルアムはアランの背中を見つめた。




「我々はお妃様を傷つけぬよう心してお救いせねばならん。それが何故かは分かるな?」


「―――はい、ウィリアム様」



マーフィーは額の汗を拭い、改めて気を張りアランの後に続いて歩いた。
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