オトナの秘密基地
「動かなくなったぞ。

大丈夫なのか?」


「ええ、やっと寝たんです。大丈夫」


正直、大丈夫なんていう自信はないけれど、中田さんが現代にいる限り、この赤子も元気に育つはず。


「そうか、ならば安心だ」


旦那様はそう言って、お腹から手を放した。


「ここに居られるのも、今宵限りか……」


私のお腹に当てていた手を、今度はカツヤの頭に乗せて呟いている。

え、今、宵限りって言った!?

ってことは、明日、軍隊に戻ってしまう、もしくはそのまま戦地へ行ってしまうっていう事?

時期的に考えて、旦那様と和子さんの、最期の夜、だったんだ……。

そんな大事な時なのに『中の人』が私で、いいの?

和子さん、見えないけれど、その辺にいるんでしょう?

ここは本物の和子さんじゃないと、旦那様が可哀想だよ。

でも、マスターが言ってたっけ。

『自分の事はどうしようもない』って……。


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