オトナの秘密基地
「まさか、自分の干支を忘れるとはな。

……では、お前の両親の名前は?

俺の階級は?

カツヤの生年月日は?」


どれも全くわからなかった。

答えられない私を見て、旦那様はとても失望した表情で言った。


「もういい。

俺のことを『旦那様』と呼んだ時点で、お前が和子ではないと断言できる。

和子は、俺の父親の事をずっと『旦那様』と呼んでいたからな」


……ついうっかり、心の中で呼んでいた『旦那様』を、声に出してしまったのが失敗だったとは。

そっか、和子さんは奉公先のご主人である旦那様のお父さんのことを『旦那様』って呼んでいたから、自分の旦那様は違う呼び方だったんだ……。


「それで、お前は結局、誰だ?」


さっきより、幾分穏やかな、けれど、甘えを許さない声で聞かれた。

これはもう、言い逃れできないと思った。
< 118 / 294 >

この作品をシェア

pagetop