オトナの秘密基地
里帰り出産で、甘えてごろごろしていた愛実だったけれど、予定日を過ぎてからは必死に運動を開始していた。

陣痛が来るようにと、家の階段を何度も上り下りして、スクワットまでやっていた。

……私もそろそろ、スクワットしてみようかしら。

できれば出産なんて避けたいけれど。


カツヤを連れて護国神社まで足を延ばすのは、日課になっていた。

歴史は変えられない。

征二さんは戻ってこない。

日本はもうすぐ戦争に負ける。

だからいくら神仏に縋ってもダメだっていうことは理解している。

それでもここで祈りを捧げることが、心の平穏を保つために必要なのかも知れない。

今の私が能動的になれるのは、祈ることだけだったから。

そう考えるのは、私だけではなかった。
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