オトナの秘密基地
……また、目の前が白くなる。

もうこれできっと最後だから、忘れたくない事をしっかり思い出そう。

カツヤのちっちゃくて柔らかい手と、すべすべのほっぺ。

甘えた声で「か~しゃん」と呼び、抱っこをせがむ姿。

そんな息子を、優しい眼で見守る征二さん。

大事な家族を、その家族が暮らす故郷を守るために行ってしまった征二さんは、もう二度と戻ってこない。

それでも、征二さんの志はきっとカツヤに伝わっている。

カツヤから弟の新矢へ、そして新矢の息子である中田さんへ。


……中田さん、どうなったかな。

自分の使命を果たしたという満足感と、出産に対する恐怖感で、中田さんのことをすっかり忘れていた。

確か最初は、中田さんを助けるために来たはずだったのに。


そんな事を考えているうちに、体が一気に重たくなり、そして……。
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