オトナの秘密基地
「それでいい。これからは妻として、俺の家を守って欲しい。ずっと、この時を待っていた」
「え? それは……」
「俺と祝言を挙げるのは嫌か?」
夢、だろうか。若旦那様が私と祝言を挙げる、と言っている。
夢じゃない。手足は痛いほど凍(しば)れている。
何より、真剣な旦那様の眼差しがこんなに近いなんて。
でも、夢じゃないからこそ、正気を保たなくては。
「だって、私は若旦那様と釣り合いません」
旦那様がご存命であった頃、若旦那様にお見合いの話がいくつもあったのを知っている。
造り酒屋、大地主、軍の上層部、議員様など、いずれも名家のお嬢様ばかりだった。
その度に若旦那様は『士官学校を出たばかりで、まだ早い』などと言って断っていた。
早く身を固めて安心させて欲しいと懇願する旦那様に対しても、後継ぎよりまず自分の仕事……帝国陸軍の将校として一人前になることが先だと言って譲らなかった。
大地主である中田家の嫁として。
帝国陸軍の将校の妻として。
小学校しか出ていない、小作農の娘の私が、相応しいとは思えない。
妾としてであれば、もしかしたら。そう心の中で願ったこともあった。なのに……。