ポンコツ王太子と結婚破棄したら、一途な騎士に溺愛されました
「王太子付き近衛騎士団団長リンド殿。あなたは、王太子妃であるわたくしが、手ずから淹れたお茶を口に出来るような身分でいらっしゃるの?」

「……っ」

 ひとの顔から、音を立てる勢いで血の気が引いていくのを初めて見た。

 身分を笠に着て、目下の者の失態をあげつらう。

 今までユフィーナ自身が心の底から嫌悪してきた行為だが、ここの連中相手にしてみると、ちょっと、いやかなり気分が良かった。まずい、顔が緩みそうだ。

(嫌だわ、いつの間にこんなに性格が悪くなったのかしら)

 しかしこの一年の間に、下町で覚えた不文律。

 それは、「ナメられたら終わり」というやつだ。

 喧嘩と紅茶の善し悪しは、最初の一呼吸で勝負が決まる。

 くっと嘲笑の形に唇を歪めて、ちらりと真っ青になっている侍女達を見遣る。

「そうですわねえ? あなた方の言うとおり、わたくしは結婚以来、殿下に蔑まれるばかりの正室でしたもの。殿下がわたくしなどよりずっと麗しいミーア様をご寵愛なさるのも、いずれ王妃にと努力なさるのも、当然のことだと思いますわ」

 つい先程まで散々ユフィーナの悪口を言っていた侍女達は、揃って短く悲鳴を上げると蒼白になって後退った。

 そのひとりひとりを順に見据え、艶やかに笑ってやる。

 王太子妃という立場に相応しく、傲然と。

「あら、どうなさいましたの? お飾りの正室など、殿下とミーア様が育んで来られた素晴らしい愛の妨げにしかならない。そう、本当のことを言っていたのはあなた方じゃなくって?」

 アンタ方の顔はしっかり覚えてあげたわよ、と言わんばかりの口調に、再び引きつった悲鳴が上がる。

「お……お許し下さい!」

 見事に声を揃えた彼女達を無視して、ゆっくりと王太子に視線を向ける。目を瞠ったまま固まった間抜けヅラがどうにも笑えるが、ここで吹き出したら全てが台無しである。

 ここは我慢だ、頑張れ自分。
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