ポンコツ王太子と結婚破棄したら、一途な騎士に溺愛されました
 死にたくなんてないものね。

 やっぱり、生きていないと美味しいお菓子も食べられないし、子ども達と遊ぶことも出来ないし、お友達とお喋りすることも出来ないし。

「だからね、私は年を取ってしわしわになって、旦那様が若い女の子の方を好きになっちゃったとしても、ちゃんと必要としてもらえる奥方でいられるようになりたいの」

 子どもを沢山産んで。

 その子達を、自分の手で守って育てて。

 家族みんなが、いつも笑っていられるように。

「この家に生まれた以上、流石に結婚ばかりは、お父さまか国王陛下の胸一つですものね。……出来れば余り年の違わない、私が温室に閉じこもっても文句を言わない方だとありがたいのだけど」

 国王に匹敵する程の権勢を誇る、限りなく王家に近い血を持つ家の娘となれば、その婚姻は政略的なものとなるのは仕方のないことなのだろう。

 しかし、少し変わり者とはいえ、溺愛する末娘が強請れば望む相手と添い遂げられるのではないか、と問い掛けなかったのは、彼女の本心を聞きたくなかったから。

 三つ年下の彼女に、騎士見習いとして公爵家にやって来て初めて会ったとき、心なんて全部奪われていたけれど、彼女の護衛として常にその傍にある間、もうひとりの兄のように無邪気に慕ってくる笑顔が、実の兄に対するそれとまるで同じで。

 笑顔を向けられるのはいつだって嬉しいのに、同時に酷く胸が痛んだ。

 その痛みは時折息苦しい程に苦しくて、なのに彼女の笑顔を求めることだけはどうしたってやめられなかった。

 笑って欲しくて。

 傍に、いて欲しくて。

 ――王家に匹敵する程の力を持つ故に、その名を負うものとしての義務と誇りを理解している彼女が、政略的な家同士の繋がりより、己の感情を優先することなどあり得ないと、既に知っていた。

 けれど。

 それでも。
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