ポンコツ王太子と結婚破棄したら、一途な騎士に溺愛されました
「ユフィ」

「なあに? ジーク」

 呼ぶ声に振り返り、当然のように与えられる笑顔に、何度見惚れたことだろう。

 彼女と共にある時間は、他の何より輝いて、見るもの全てが美しかった。

 生まれて初めて目にした花が、心ばかりか魂そのものまで魅了する程に美しいものだったことは、僥倖とは言えないのかもしれない。

 だって、他の誰も欲しくない。

 どんな令嬢と言葉を交わしても、彼女ならばどんな答えが返ってくるのだろうと思ってしまう。

 どんな貴婦人が魅惑的な身体をすり寄せてきても、彼女のほっそりとした身体の方が柔らかそうだと醒めてしまう。

 ならば、仕方がないじゃないか。

 欲しいのが彼女だけなら、手に入れるために動けばいい。

 彼女を得るに相応しい力と地位を、この手で掴めばいい。

 誰よりも何よりも愛しい彼女がしわしわの可愛いお婆ちゃんになったとき、その隣で薄くなった頭と樽のようになった腹を嘆いている未来が欲しいと思ってしまったのだから。

「いつか――オレが、立派な騎士になって戻ってきたら」

 あなたの隣に立つことが相応しい男になって、帰って来たなら。

「おかえりなさい、と言ってくれますか?」

 いつだって、自分が帰ってくるのはあなたの元なのだから。

 勿論よ、と笑う彼女の髪には、数日前に贈ったリボンが、ふわりと揺れていた。
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