ポンコツ王太子と結婚破棄したら、一途な騎士に溺愛されました
 祖国の家族に向けた手紙も、果たして届いているのかどうか。

 どうせ検閲されるのだろうと、当たり障りのない挨拶と、家族の現状を訪ねる文章しかしたためなかったのだが、一度も返事が来ないところを見ると、やはり全て処分されてしまったのかもしれない。

「ニナ。一年もこんな生活に付き合わせちゃって、ごめんなさいね?」

 ユフィーナと姉妹のように育った彼女だけが、この王宮でユフィーナが言葉を交わすことの出来る存在だった。

 人質同然の輿入れであり、ユフィーナについてくることを望んでくれたのはこの頼りになる友人だけで、今もにっこりと笑い返してくれる。

「いえ、ユフィ様。とても面白い経験でしたわ。本当、話だけを纏めれば、まさに悲劇の姫君ですものね! 後々戯作者にユフィ様の受けた仕打ちの数々を教えたなら、さぞ沢山の愛憎劇を作りだしてくれることと思いますわ!」

 その際は、しっかり情報提供料をいただかなくては! と両手を握って力説する辺り、ニナもこの一年で随分頼もしくなったものだ。

 ユフィーナがこの王宮で与えられたのは、徐々に身体が弱っていくような気の抜けた毒や、えげつない悪意がてんこ盛りの食事。

 それに、愛妾からのお下がりのドレスや装飾品。

 正室のプライドを土足で踏みにじるような所業ではあるが、初めて王太子とベール越しに対面したとき、「貧相な小娘だな。僕がお前のような者を妻として認めることは生涯ない。ミーアに正室ぶって偉そうな態度を取ってみろ、その場で嬲り殺してくれる」と宣言されたユフィーナである。そんなことを気にするような段階は、とっくの昔に通り過ぎた。

 食事は全てゴミに出した。

 豪奢な絹地とレースで作られた、一度袖を通したものであっても十分に高価なドレスや、少しばかり流行を過ぎても黄金や宝石の塊である宝飾品は、街に持っていけば、真面目に働いている人々に申し訳なくなる程の高値で売れた。

 幼い頃から一通り護身術を身につけたユフィーナは勿論、その護衛としての訓練を受けているニナにとって、平和ボケした王宮の警備をくぐり抜けるなど、赤子の手を捻るようなものだ。
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