シュガーレス

*2



この街で暮らし始めて、8年が過ぎた。


虫の声。


頬をかすめる、涼しげな風。


キンモクセイの香り。


そして街路樹の落ち葉が、

この街の秋が深まってきていると、教えてくれる。



「あら、結衣ちゃん。
お帰りなさい。」


近所に住む八百屋のおばさんが、ニッコリと笑いかけてきた。


「ただいま。」


私も愛想良く返すと、感心したようにおばさんが頷く。


「結衣ちゃん、ますます美人になったわねー!
でも最近、変な人も多いから気を付けないとダメよ?」


「はい、気を付けます!
それじゃあ失礼します。」


愛想が良くて、礼儀正しい“結衣ちゃん”を取り繕って、その場をやり過ごすなり、深いため息をついた。





< 202 / 209 >

この作品をシェア

pagetop