シュガーレス
*2
この街で暮らし始めて、8年が過ぎた。
虫の声。
頬をかすめる、涼しげな風。
キンモクセイの香り。
そして街路樹の落ち葉が、
この街の秋が深まってきていると、教えてくれる。
「あら、結衣ちゃん。
お帰りなさい。」
近所に住む八百屋のおばさんが、ニッコリと笑いかけてきた。
「ただいま。」
私も愛想良く返すと、感心したようにおばさんが頷く。
「結衣ちゃん、ますます美人になったわねー!
でも最近、変な人も多いから気を付けないとダメよ?」
「はい、気を付けます!
それじゃあ失礼します。」
愛想が良くて、礼儀正しい“結衣ちゃん”を取り繕って、その場をやり過ごすなり、深いため息をついた。