プレシャス
「…あの人…あたしの…彼氏なんだ。ずっと…前から女のコとの噂とか…絶えなくて…やんなっちゃうね」
ポツリポツリと
そんな話を口にし始めたのは
閉店作業が一通り終わったいつものお店のカウンターでだった。
「あたし…ホントはなんとなく…気付いてた…でも…ずっと…聞けなくて……」
泣きはらした顔で扉を開いたあたし達を
マスターは何も聞かず中へ招いてくれて。
お店の鍵を坂井君に預けると
そのまま二階の自宅へと上がって行った。
暗い店内にカウンターだけに灯る薄暗い照明
呟くように口にする話を坂井君はずっと、あたしと同じ高さに目線を合わせて
手を握りながら聞いてくれていた。
「…あたし…下手くそだぁ…いつも…うまくいかないや」
情けない話に笑うしかない
そうやって笑顔を無理矢理作るけど。
覗き込む黒くて深いまっすぐな真摯な瞳は、ごまかそうとする作り笑いさえ
すぐ涙に変えてしまう