ゴースト ――あたしの中の、良からぬ……

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「すみません、今日はちょっと気分が優れないんです。

もう帰らせてもらっていいですか?」


始まって1時間半ほどで、ついにあたしは音をあげた。

ごくごく普通の指導を受けていたにすぎないのに、水面下の緊張感にどうしても耐えられなかった。


(ネットにばら撒かれたくなければ)


あの黒川さんの声が頭の中を何度も鳴り響いて、普通の指導すら異常に感じて。

いつものようにあたしの鉛筆を持つ手に重ねる黒川さんのきれいな手が、手錠のように思えて。

この部屋が牢獄のようで。

実際あたしは、緊張のあまり胃が痛かった。


疲れたあたしの声に、黒川さんは形のよい眉をすぅっと上げる。


「また逃げる気?」


上品に首を傾げると、黒い前髪がさらりと揺れた。

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