ゴースト ――あたしの中の、良からぬ……
(逃げる――?)


「逃げるだなんて、どうして……」


逃げたい。ここから。


「お腹が痛いんです」

「本当に?」


形の良い眉が、すぅっと上がる。


「……胃が、痛くて……」

「……別にいいよ。

今日は許してあげる。

次回もちゃんと来るならね。

――僕を裏切らずに」


闇のような暗い瞳が鈍い光を放って。

黒川さんはどこか歪んだ笑みを端正な頬に浮かべた。


(裏切る?)


どうして、裏切る、だなんて言葉を使うのか、理解できなかった。

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