ゴースト ――あたしの中の、良からぬ……
ドアを閉めようとするのを、あたしは素早く半身で入り込んで体で止めると。

強引に扉を開いて中に入り、どんどん奥に入っていこうとする黒川さんに靴のまま走り寄って、腕を取って叫んだ。


「レイさんはあなたを裏切ってなかったの。

ほんとだよ。レイさんは最後まで、あなただけを愛してた。

……それはこの人が一番よく知ってる。

お願い。清水さんの話を聞いて」


あたしは清水さんを振り返る。

清水さんは黙ってうなずくと、口を開いた。


「……黒川くん。

レイの恋人が君だと知っていれば、もっと早くに話していた。

それを知ったのは昨日なんだ。本当にすまない――

俺の言うことなんて聞きたくないだろうけど、今から言うのは事実だから」


清水さんの、深みのある声でなされる告白が、静かで無機質な部屋に響く。

ただ顔をそむけて黙っていた黒川さんは。

清水さんの話が終わってしばらくして、ポツリと言った。


「帰れ」

「……」

< 234 / 278 >

この作品をシェア

pagetop