ゴースト ――あたしの中の、良からぬ……
エレベーターを降り立つと。

勇気を出して、震える指で黒川さんのドアの横のインターフォンを鳴らす。

時間は、約束の午前10時半きっかり。


「こんな時間に一体どうし……」


静かな口調でそう言いかけて。

ドアを開けたとたん、あたしと清水さんを見てハッと大きく息を吸い込んで。

黒川さんは口をつぐんだ。


「……智弘さん」

「お前は……」


清水さんを見て、いつも冷徹な黒川さんの顔に今まで見たことのないような怒りがたぎるのを、息をするのも忘れて見ていた。

黒い鋭い目がらんらんと燃えさかる。

まるで光線でも発するかのように。


「何しにきた。帰れ」


すべてを拒絶する、冷たい声。


「智弘さん、聞いて」

「何も聞きたくない。顔も見たくない。帰れ」

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