ゴースト ――あたしの中の、良からぬ……
(だめ、泣いたらダメ)


智弘さんを愛してるレイさんが、今泣いたら変だもん。

泣いたらダメ。


だってあたしはレイさんなんだから。

ダメだったら――


(薫さん――)


勝手に心が薫さんの名前を呼んだ。


(ダメだって……)


涙が滲みそうになるところを、歯を食いしばって死ぬ思いでこらえる。


(そうだ、今薫さんといると思えばいいんだ)


これは薫さん。

この手も、この肩も、背中も、この唇も――薫さん。


ほらね、つらくない。

つらくなんか、ないよ。



心が、ちぎれそうに痛かった。

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