泣き顔の白猫


「……いかにも警察官ですね、そういうの」

暗さに目が慣れて、店内の様子もぼんやり見えるようになった頃、名波がぽつりと言った。

「え、」と、加原は口を開ける。
名波は、目を伏せて言った。

「なんか……人影が見えたから思わず、とかって。職業意識っていうか」
「あー、だって、そりゃ……電気も点けないでゴソゴソやってたら、気になるでしょ、ふつーに」

名波は一度目線を上げて、加原を窺い見てから、それを横に泳がせた。

「……忘れ物、取りに来ただけなので。電気、いいかなって」
「……名波ちゃん、案外ずぼら?」

尖った唇が可愛くて、さらりと可愛いと思っている自分があまりに自然で、加原は少し戸惑う。

こんな時でも――ただの喫茶店員と客、という関係とは、状況が変わってしまった今でも――そんなふうに思えることが意外だったのだ。

「そうですね、怪しいですよね。すいません」
「あ、そういうつもりじゃ」

名波の固い表情をなんとか緩めたくて、加原は言い募る。
そういえば、こんなふうに会話することも、ここ十日くらいはなかった。

「考えてみたら、普通に鍵使って開けてるんだから、全然怪しくないよね。俺の早トチリでした」

加原がへらりと笑って言うと、名波は顔を伏せた。
なにか地雷でも踏んだかと、焦る。

「……マスター、合鍵、預けてくれてるんです」
「え」
「こんな私に。私みたいなの、雇ってくれて、信用してくれてるんです。……なんか、申し訳なくって」
「……どうしてそんなふうに」

口にしてから、後悔した。
いやな汗が、うなじを流れた気がする。

猫みたいな、丸い瞳と、目が合った。

「だって加原さん、知ってますよね、私が、殺人事件の犯人だったって」

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