泣き顔の白猫

名波は主に、加原の話に相槌を打つばかりである。

表情もたいして変わらなければ、反応もどちらかといえば薄い方だ。
それでもうんうんと何でも丁寧に聞いてくれるので、加原もつい饒舌になっていた。

会社勤めの経験がないらしいから、仕事の話が物珍しいのだろうか。
そんな会話の途中で出てきた人物の話題を、加原はマスターに振る。

「マスター知ってますよね? ヤスさん。」
「えぇ。最近来ませんね」
「賑やかなのが好きな人だから、定食屋とか居酒屋とか、大勢で行きたがるんですよねー」

マスターの穏やかな笑顔にそう返してから、名波に向き直る。

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