泣き顔の白猫
「俺今の課二年目なんだけどね。入ったばっかの頃からよくしてくれてねー。ここもその人に教えて貰ったんだよ」
「へぇ……そうなんですか。……加原さんって、」
名波がぱちりと手拍子のように瞬きをするので、加原は「ん?」と、目で尋ねる。
すると、名波は言った。
「その、ヤスさんって人のこと、すごく尊敬してるんですね」
そして小さく笑った名波の表情に、加原の目は釘付けになる。
愛想がなくて表情の乏しいわりに、笑う時はとんでもなく魅力的なのだ。
(これはズルいわー……)
散々言い訳じみたことを考えていたが、正直この控えめな笑顔が見たくてここに通っていると言っても過言ではないと、自覚している。
新米の分際で今はそんな場合じゃないと必死で自分に言い聞かせているのに、疲れたと加原が感じる時に必ず一緒に思い浮かべるのは、美味しいご飯と美味しいコーヒーと、名波の顔なのだ。