泣き顔の白猫


「で、二件目の被害者」
「えっと、立松岬ですね」
「発見からずっと、どのルートで落ちたのかを調べてたろ」

潮風と不特定多数の人間の手に晒された手摺の傷や汚れ、崖に生えた草が潰されている場所や、コンクリートについた血痕、皮膚片を探す作業である。
それほど広い場所ではないとはいえ、地道な捜査だし、ほとんど垂直の崖を縦に調べる必要もあるから、大変だ。

「落ちたルートはだいたい検討がついた。でもな、それが一直線じゃないんだよ」
「え? どういうことですか」

加原は、頭の中で立松岬の風景を思い浮かべた。
ここ二、三週間ほどは、飽きるほど見ている場所である。

麓に沿ってぐるりとつけられた坂道を上がって行った先、突き当たりまで進むと、突然視界がぱっと開ける。
なにもない展望台には、道を挟んで、駐車場が二つ。

遺体は、海側の駐車場から下を覗き込んだ観光客によって発見された。

その駐車場の隅には公衆トイレと、下へ下るS字の歩道がついている。
これで少し海に近い方へ降りられるのだが、今回、これが問題となっているようだった。

安本は言う。

「歩道を挟んで、落下ルートがずれてるんだよ」
「……途中で方向転換したんですか?」
「そんな微妙なずれ方じゃねぇんだ。五メートルは離れてるかな」
「なんでそんなに……?」

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