泣き顔の白猫
「でした?」
「はぁ、実はですね……五年前、卒業式の直前のことなんですがね」
「あ……」と、不意に安本が声を上げる。
加原と校長がそちらを向くと、安本は顔を上げて、何か思い出したように頷いていた。
「そうか、こちらの学校でしたね、あの事件は」
「えぇ、はい。あの時は……お世話になりまして」
加原だけが思い当たらないようで、首を傾げる。
「なんだお前、知らねぇのか。五年前の冬っつったら……交番勤務だったな」
「えっと、昇任試験で猛勉強してた頃ですね。なんですか、事件って?」
加原が訝しげに尋ねると、安本は、校長の顔を一度伺う。
丸い顔が頷いたのを見てから、安本は口を開いた。
「ここの生徒がな、学校の敷地内で、殺されたんだよ。ナイフで刺されて」
加原は、「え」と目を丸くする。
覚えてねぇか、と問われるが、どうも、そんな事件があったな、というくらいの記憶だ。
「鈴木くんたちのグループの中心だった、畑野優馬(はたのゆうま)という男子生徒ですよ。ほら」
そう言って校長は、ある写真を指した。