スミダハイツ~隣人恋愛録~
こんな状態じゃあ、仕事もままならない。
だからといって、休んでられるほど、現実は甘くはなくて。
29歳という、自分の微妙な年齢を憂う。
麻子が黙々と仕事をこなしていたら、編集長が出社してきた。
息を吐いて気持ちを切り替え、麻子は仕上げておいた企画書を手に編集長を呼び止める。
「あの、これ。例の、企画書です。私なりに色々考えてみたんですけど」
「お、早いな」
「ラーメン特集です」
書類を渡す手は、期待と不安で変に震えた。
編集長は「あぁ」と、それを受け取り、さっと目を通すと、
「ダメだな。ありきたりすぎる」
切って捨てるように言って、編集長は書類を粗雑に放った。
「確かにラーメン特集は読者ウケする。が、これじゃあ、今までと同じでしかない」
「……そん、な……」
「ただ、たくさんのラーメン屋を紹介すればいいのか? だったら、写真を載せてマップを作ればいい。でも、それじゃあ、他紙との差別化は図れないぞ」
「………」
「お前の企画はな、つまらないんだよ。インパクトも何もない。何を押しているのか、何が伝えたいのか、まったく見えてこないんだよ」
「………」
「こんな程度の企画なら、誰にだって出せる。俺はそんなものが欲しくてお前に企画案を出してみろと言ったわけじゃない」
「………」
「やり直せ。できないなら、他のやつにやらせるまでだ」
編集長は席を立った。
麻子は泣きそうになり、顔を覆う。
編集長は、そんな麻子の肩に手を置き、
「まぁ、明日まで時間やるから、もう一度これ練り直してこい」
麻子は唇を噛み締めた。