スミダハイツ~隣人恋愛録~


同僚は励ましてくれたが、麻子はそれを聞き入れることができなかった。

まるで同情されているみたいで、余計、惨めに感じてしまって。


編集長が嫌味で言ったわけではないとわかっていながらも、麻子は立ち直れないほど辛くなった。


どうして私は、何ひとつ上手く行かないのだろう、と。

榊に追い付きたい一心で頑張ってきたのに、なのに今は、すべてを失ったような気分だった。



家に帰っても、書類は一向に進まない。



「あー、もう!」


いい加減、悩むのも馬鹿らしくなってきた。

うじうじしてたってどうにもならないし、だったらまずは、解決できるところからだ。


麻子は部屋を出て、201号室のチャイムを連打する。



「榊くん! いるんでしょ! 出てきてよ!」


さらにドアまで叩いていたら、ガチャガチャと音がして、榊が怪訝に顔を覗かせた。



「何時だと思ってやがるんだ、てめぇは。嫌がらせがしたいのか」


心底迷惑そうな顔で言う榊。

だからって、麻子に引く気はない。



「昨日のこと、やっぱりもう一度ちゃんと話したくて」

「何ひとつ覚えてないやつと話すことなんかねぇって言ったろ」

「じゃあ、私はここを動かない」

「はぁ?」

「私は榊くんの所為で仕事が手に付かなかったの。おまけに、せっかく出した企画案にまでダメ出しされて」

「それは俺がどうとかじゃねぇだろ」

「そうかもしれないけど。でも、こんなままじゃあ、この先ずっともやもやしたままじゃない」


榊は「お前なぁ」と、肩を落とす。



「本当の、本当に、何も覚えてないんだな?」
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